[00:00.10]こうして僕は [00:02.17]六年前 サハラ砂漠で飛行機が故障するまで [00:06.39]心を許して話せる相手に出会うこともなく [00:10.25]一人で生きてきた [00:21.22]飛行機は エンジンのどこかが壊れていた [00:25.38]整備士も乗客も乗せていなかったので [00:29.73]僕は難しい修理の仕事を一人でやり遂げるしかなかった [00:34.16]死活(しかつ)問題だった [00:38.26]飲み水は一週間分あるかないかだった [00:44.48]最初の夜 [00:46.36]僕は人の住む場所から千マイルも離れた砂の上で眠った [00:53.66]大海原(おおうなばら)を筏(いかだ)で漂流する遭難者より [00:56.41]ずっと孤独だった [00:58.18]だから 夜明けに小さな可愛らしい声で起こされた時 [01:04.47]僕がどんなに驚いたか想像してみてほしい [01:09.60]その声は こう言った [01:14.26]「お願い、羊の絵を書いて。」 [01:18.07]「え?」 [01:19.16]「羊を書いて。」 [01:21.60]雷(かみなり)に打たれたみたいに飛び起きると [01:24.45]目を擦って辺りを見回した [01:27.23]そこには、とても不思議な子供が一人いて [01:31.90]僕を真剣に見つめていた [01:36.48]僕は突然現れたその子供を目を丸くして見つめた [01:41.72]何度も言うけれど [01:44.11]人の住む所から千マイルも離れていたのだ [01:47.66]しかしその子は [01:51.34]道に迷っているようには見えなかった [01:53.87]疲れや飢えや渇きで死にそうになっているようにも [01:58.74]怖がっているようにも見えなかった [02:01.50]人の住む所から千マイルも離れた砂漠を真ん中にいながら [02:07.91]途方に暮れた迷子と言った様子は少しもなかったのだ [02:14.59]ようやく口が聞けるようになると、僕はその子に尋ねた [02:20.13]「君は、こんな所で何をしているの?」 [02:27.53]しかしその子はとても大切なことのように 静かに繰り返すだけ [02:35.40]「お願い、羊の絵を書いて。」 [02:39.71]馬鹿げた話だが [02:41.31]人の住む所から千マイルも離れて [02:44.70]死の危険に曝(さら)されているというのに [02:47.13]僕はその子に言われるままに [02:50.75]ポケットから一枚の紙切れ(かみきれ)と万年筆を取り出していた [02:58.13]だけどそこで [02:59.19]僕が一生懸命勉強してきたのは [03:02.37]地理と歴史と算数と文法だけだったことを思い出して [03:06.22]少し不機嫌になりながら [03:08.77]絵は書けないんだと その子に言った。 [03:14.62]「そんなの構わないよ。羊を書いて。」 [03:20.75]僕は羊の絵なんか書いたことがなかったので [03:24.03]自分に書けるたった二つの絵のうちの一つを書いてあげた [03:27.86]ボアの外側の絵だ [03:32.55]その時男の子がこういうのを聞いて [03:34.94]僕はビックリした [03:38.87]「違う違う。 [03:39.81]ボアに飲み込まれた象なんて要らないよ。 [03:43.54]ボアはとっても危険だし、 [03:45.42]象はけっこう場所塞(ふさ)ぎだから。 [03:48.41]僕の所はとっても小さいんだ。 [03:52.38]ほしいのは羊。羊を書いて。」 [03:57.71]そこで僕は、羊を書いた。 [04:05.19]「んー、ダメだよ。この羊はひどい病気だ。 [04:11.10]違うのを書いて。」 [04:14.73]僕は書き直した。 [04:17.60]男の子は僕を気遣って、優しく微笑んだ。 [04:22.98]「よく見て、これは羊じゃあないでしょう。 [04:26.68]雄羊(おひつじ)だよね。 [04:28.48]角(つの)があるもの。」 [04:28.48]そこで僕はまた書き直した。 [04:35.41]けれどそれも前の二つと同じように拒絶された。 [04:40.24]「この羊は年を取りすぎているよ。 [04:43.46]僕、長生きする羊がほしいの。」 [04:48.33]我慢も限界に近づいていた [04:51.56]修理を始めなければと焦っていた [04:54.99]僕は [04:56.72]ざっと書きなぐった絵を男の子に投げ渡した [05:02.50]「これは羊の箱だ。 [05:03.71]君が欲しがっている羊はこの中にいるよ。」 [05:08.99]すると驚いたことに [05:11.12]この小さな審査員(しんさいん)の顔が [05:14.04]ぱっと輝いたのだ [05:17.46]「ぴったりだよ。 [05:19.83]僕がほしかったのは、この羊さ。 [05:23.72]ねえ、この羊、草をいっぱい食べるかな?」 [05:27.88]「どうして?」 [05:30.32]「僕の所はとっても小さいから。」 [05:35.05]「大丈夫だよ。 [05:36.43]君にあげたのはとっても小さな羊だからね。」 [05:42.33]「そんなに小さくないよ。 [05:45.22]あれ、羊は寝ちゃったみたい。」 [05:48.08]こうして僕は [05:51.13]この小さな王子さまと知り合いになった [05:59.53]王子さまがとこから来たのか分かるまで [06:02.32]かなり時間がかかった [06:05.53]王子さまは [06:07.66]僕にはたくさん質問してくるのに [06:10.86]こちらからの質問にはほとんど耳を貸さなかったのだ [06:16.56]少しずつ全てが明らかになっていったのは [06:20.05]王子さまが偶々口にした言葉からだった [06:24.99]それは [06:27.18]初めて僕の飛行機を見た時のことだ [06:30.44]「何、これ?」 [06:33.59]「飛行機。空を飛ぶんだ。僕の飛行機さ。」 [06:40.58]空を飛べると自慢げに話していたら [06:43.03]王子さまは大声で言った [06:47.13]「え?じゃあ、君は空から落(お)っこちてきたんだ。」 [06:51.66]「まあ、そうだなあ。」 [06:54.78]「あ、それは可笑しいね。」 [06:59.39]王子さまは可愛い声で笑い出したが [07:01.78]僕はかなりいらいらした [07:05.72]自分を襲った災難を [07:07.68]真面目に受け取ってほしかったのだ [07:11.71]しかし王子さまは続けてこう言った [07:15.38]「それじゃ、君も空から来たんだね。 [07:20.84]どの星から来たの?」 [07:24.59]その瞬間 [07:25.81]王子さまがなぜここにいるのかという疑問に [07:28.96]さっと光が差し込んだように感じて [07:32.39]僕はすぐに尋ねた [07:36.12]「君は、よその星から来たのかい?」 [07:40.78]しかし王子さまは答えず [07:43.35]飛行機を見て、そっと首を振っただけだった [07:48.78]「これに乗ってきたのなら、 [07:50.75]そんなに遠くからじゃないよね。」 [07:52.71]そう言うと 物思いに沈んでいった [07:57.74]王子さまはポケットから羊の絵を取り出して [08:02.97]大切そうに眺めていた。 [08:06.72]「君はどこから来たの? [08:09.38]その羊をどこへ連れて行くつもりなの?」 [08:14.23]「この箱がいいのわね。 [08:16.61]夜になると、羊の小屋になるって所だよ。」 [08:20.42]「そうだね。 [08:23.79]いい子にしていたら、 [08:25.50]昼間羊を繋いでおく綱もあげるよ。 [08:29.18]それに、綱を結んでおく杭(くい)もね。」 [08:33.24]「羊を繋いでおくの? [08:35.85]可笑しいよ、そんなの。」 [08:38.45]「でも、繋いでおかなかったら、 [08:41.22]勝手にあちこち歩き回って、 [08:43.71]どこかいなくなっちゃうだろ。」 [08:46.82]すると、僕の友達はまた笑い出した。 [08:51.98]「羊がどこへ行くっていうのさ。」 [08:55.22]「どこにでも。ずっとまっすぐ歩いていって…」 [09:00.56]「大丈夫だよ、僕の所は本当に小さいからね。 [09:05.31]まっすぐに行っても [09:07.65]そんなに遠くには行けないよ。」 [09:15.20]こうして僕は [09:16.90]二つ目のとても大切なことを知った [09:20.81]王子さまのいた星は家一軒(いっけん)より [09:23.88]やや大きいくらいの大きさなのだ。 [09:28.56]それほど驚きはしなかった [09:31.79]地球や木星・火星・金星のように [09:36.22]名前のある巨大な星以外にも [09:39.10]望遠鏡でも見つからないほど小さな星が [09:42.27]何百とあることを知っていたからだ [09:46.77]天文学者がそんな星を発見すると [09:49.73]名前の代わりに番号を付ける [09:53.24]例えば、小惑星325と言ったように。 [10:00.14]王子さまがやって来た星は [10:02.38]小惑星B612だと思う [10:07.46]1909年にトルコの天文学者が [10:11.14]一度だけ望遠鏡で観測した星だ [10:16.25]天文学者は国際天文家会議で [10:19.34]自分の発見について堂々と発表した [10:23.35]しかしその時は [10:24.89]服装のせいで [10:26.04]誰にも信じてもらえなかった [10:30.00]大人なんて そんなもんだ [10:33.43]しかし [10:34.49]小惑星B612に [10:36.32]名誉挽回(めいよばんかい)の幸運が訪れた [10:40.89]トルコの独裁者が [10:42.52]国民にヨーロッパ風の服装を着るように命令し [10:46.72]従わなければ死刑ということになったのだ [10:51.34]そこで天文学者は [10:53.12]1920年、今度は [10:56.30]もっと洗練(せんれん)された服装で同じ発表を繰り返した [11:01.66]この時はみんなが彼の言うことを信じた。 [11:10.93]この星のことをこんなに詳しく話して [11:13.90]番号まで教えるのは [11:15.81]大人たちのせいだ [11:19.02]大人は数字が好きだ [11:21.63]数字以外には興味がない [11:24.95]新しい友達のことを話しても [11:27.70]どんな声か [11:29.04]どんな遊びが好きか [11:31.22]蝶々を集めているかと言った [11:33.56]大切なことは何も聞いて来ない [11:37.63]何歳か [11:39.18]何人兄弟か [11:41.25]お父さんの年収はいくらかと言った [11:44.68]数字のことばかり聞いて来て [11:47.12]それですっかり知ったつもりになる [11:51.26]「王子さまは本当にいたよ。 [11:53.85]可愛かったし、笑っていたし、 [11:56.72]羊を欲しがっていた。 [11:59.33]だって、羊を欲しがるってことは、 [12:02.56]間違いなくその人が [12:03.97]本当にいるってことの証拠だからね。」 [12:08.09]こんな風に話しても [12:10.17]大人は肩を竦(すく)め [12:12.16]子供扱いするだけだ。 [12:15.47]しかし [12:16.79]「王子さまが来た星は小惑星B612だよ」と言えば [12:21.96]大人は納得して [12:24.04]それ以上余計なことは聞いて来ない [12:28.97]大人なんてそんなもんだ [12:31.76]でも 悪く思ってはいけないよ [12:35.65]子供は大人に対して [12:37.97]広い心で接してあげなきゃね [12:42.47]でも 生きるということがどういうことなのか [12:46.18]よく分かっている僕たちには [12:48.72]数字なんかどうでもいい [12:53.25]本当だったら僕は [12:55.30]この物語をお伽話のように始めたかった [13:01.23]「昔々、自分より本の少し大きいだけの星に暮らしている [13:06.94]小さな王子さまがいました [13:10.39]王子さまは友達を欲しがっていました。」 [13:16.22]生きるということがどういうことなのか分かっている人には [13:20.22]こういう言い方のほうが [13:21.86]ずっと本当らしく聞こえるだろう [13:25.96]僕は この本を軽々しく読まれたくない [13:32.53]こう言った思い出話を語ることは [13:35.61]僕にとって 本当に辛い [13:40.60]僕の友達が羊を連れて行ってしまって [13:44.03]もう六年になる [13:48.24]こうして彼のことを書くのは [13:51.66]彼を忘れないためだ [13:56.18]友達を忘れてしまうのは悲しい [13:59.86]誰にでも友達がいるわけではない [14:03.51]それに [14:04.85]僕も数字にしか興味のない大人になってしまうかもしれない [14:12.78]そうならないために僕は [14:15.23]絵の具箱と鉛筆を買った [14:19.27]六歳でボアの外側と内側を書いて以来 [14:22.48]何も書いていなかった僕にとって [14:26.19]この年でもう一度絵を書くのは大変なことだった [14:32.57]出来るだけ [14:34.08]本物そっくりな肖像画(しょうぞうが)を書いてみるつもりだ [14:38.61]でも ちゃんと書けるかどうかは [14:41.95]自信がない [14:44.53]一枚いい物が書けても [14:46.84]その次はまるで似ていないかもしれない [14:51.15]背丈(せたけ)が難しいし [14:53.35]服の色も迷ってしまう [14:57.03]手探りでやってみるが [14:59.21]もっと大事な細かい部分を間違えてしまうかもしれない [15:04.51]でも そこは大目に見てほしい [15:10.06]王子さまは [15:11.52]詳しいことは何も説明してくれなかったのだ [15:16.55]恐らく彼は [15:18.34]僕のことを自分と同じ仲間だと思ったのだろう [15:24.89]しかし残念ながら僕は [15:27.52]箱の中の羊を見ることが出来ない [15:32.91]少しばかり大人になってしまったのかもしれない [15:38.74]年を取ったのだ [15:45.77]日を追うごとに僕は [15:48.15]王子さまの星のことや [15:50.35]そこからの旅立ち [15:52.79]これまでの旅について知るようになっていった [15:57.26]王子さまが偶々口にした言葉で [16:00.30]少しずつ様子が分かってきた [16:04.98]こうして三日目に [16:06.85]バオバブをめぐる大騒動を知った [16:11.47]これも、羊のお陰だった [16:15.91]王子さまが急に心配らしくなって [16:19.07]こう聞いてきたのだ [16:21.90]「羊が小さな樹も食べるって、 [16:24.36]本当なんでしょう?」 [16:26.83]「うん、本当だよ。」 [16:29.69]「あぁ、よかった。」 [16:33.05]羊が小さな樹を食べることが [16:35.70]なぜそんなに大事なことなのか [16:38.29]僕には分からなかった [16:41.14]しかし 王子さまは更にこう聞いてきた [16:45.96]「だったら、バオバブも食べるよね。」 [16:50.34]僕は王子さまに [16:52.29]バオバブは小さな樹じゃなくて [16:54.87]教会の建物と同じぐらい大きな樹だから [16:58.43]象の群れを丸ごと連れてきても [17:01.06]たった一本のバオバブも [17:02.91]食べきれないだろうと教えてあげた [17:06.92]象の群れを思い描いて [17:09.50]王子さまは笑った。 [17:12.09]「上に上に積み重ねなきゃいけないね。」 [17:16.58]しかし、続けてなかなか鋭い指摘をした [17:21.53]「バオバブだって、大きくなる前は小さいんだよね。」 [17:26.62]「そりゃそうだよ。 [17:28.74]それにしても、 [17:30.13]どうして羊に小さなバオバブを食べてもらいたいんだい?」 [17:34.77]「何を言ってるの? [17:36.50]そんなの当たり前でしょ。」 [17:40.72]僕は [17:42.15]一人でこの難問を解き明かすことになり [17:44.78]散々頭を捻(ひね)った [17:48.44]つまり こういうことだ [17:52.60]王子さまの星には [17:54.43]他の星と同じように [17:56.23]良い草と悪い草があった [18:00.58]良い草は良い種から育ち [18:03.79]悪い草は悪い種から育つ [18:08.12]しかし 種は目に見えない [18:11.77]土の中でひっそりと眠っている [18:16.26]その一つが気まぐれに目を覚ますと [18:19.40]伸びをしておずおずと [18:22.80]あどけない小さな茎(くき)を太陽に向かって伸ばし始める [18:28.19]それが赤蕪(あかかぶ)や薔薇だったら [18:31.28]そのままにしておいて構わない [18:34.36]でも、悪い草だと分かったら [18:37.59]すぐに抜き取らなくてはいけない [18:41.78]王子さまの星には [18:43.72]そんな恐ろしい種があった [18:47.24]バオバブの種だ [18:50.93]星の土は [18:52.52]何処も彼処(かしこ)もバオバブの種だらけだった [18:57.56]少しでも抜くのが遅れると [19:00.27]バオバブはもう手が付けられなくなる [19:04.82]星全体を覆いつくし [19:07.67]根っこが突き抜け [19:09.58]穴を開けてしまう [19:12.76]小さな星だと [19:14.59]殖(ふ)えすぎたバオバブで [19:16.26]破裂してしまう [19:19.59]「決まりに出来るかどうかだね。 [19:22.34]毎朝、自分の身支度(みじたく)が済んだら、 [19:25.66]星の手入れに取り掛かる。 [19:28.86]芽(め)を出したばかりの薔薇とバオバブは [19:31.15]よく似ているんだけど、 [19:33.23]それを見分けて、バオバブだと分かったら、 [19:36.14]すぐに抜いてしまう。 [19:38.78]手間は掛かるけど、 [19:40.65]とっても簡単なことだよ。」 [19:44.21]「偶には仕事を後回しにしも大丈夫な時ってあるけど、 [19:48.69]バオバブでそんなことをしたら、 [19:50.78]取り返しがつかなくなるんだ。 [19:54.11]例えばね、ある星に、 [19:57.08]怠け者が住んでいたんだけど、 [19:59.74]その人は三本のバオバブを [20:02.25]ほったらかしにしていたばかりに…」 [20:09.47]僕は 王子さまの話すとおりに [20:12.57]その星の絵を書いた [20:15.92]星より巨大な三本のバオバブと途方に暮れる怠け者。 [20:23.00]お説教(せっきょう)臭いことを言うのは [20:24.87]あんまり好きじゃないけれど [20:26.58]バオバブの脅威(きょうい)は [20:28.26]地球ではほとんど知られていないし [20:31.61]小惑星で道に迷った人が危険な目に遭う可能性は [20:35.16]あまりにも大きい [20:38.41]だから僕は 一度だけ普段の慎みを忘れて [20:42.46]こう言っておこう [20:45.59]「おい、子供たち、バオバブに気を付けろ!」 [20:52.38]僕は友人たちに警告を与えるために [20:56.28]一生懸命この絵を仕上げた [21:00.61]苦労して書いた価値があった [21:03.70]他はこれほどうまくいかなかった [21:08.74]バオバブを書いた時は [21:10.65]切羽詰(せっぱつま)って [21:11.93]気持ちが高ぶっていたのだ [21:16.93]ああ、小さな王子さま [21:21.03]こうして僕は少しずつ [21:23.80]細やかで憂鬱な君の人生を理解していった [21:29.12]長い間、君には美しい夕日しか [21:32.65]心を慰めるものがなかったことも [21:37.32]僕がこの秘密を知ったのは [21:39.73]四日目に朝 君がこう言った時だ [21:44.76]「僕、夕日が大好きなんだ。 [21:48.00]夕日を見に行こうよ。」 [21:50.73]「でも、待たなきゃね。」 [21:53.85]「待つって、何を?」 [21:56.96]「日が沈むのをさ。」 [22:00.05]君はとてもビックリしたようだった [22:03.32]そして すぐに笑い出した [22:07.28]「僕、まだ自分の星にいるつもりになっていたよ。」 [22:13.12]「そうだね。」 [22:15.31]誰もが知っているように [22:17.34]アメリカが正午(しょうご)の時には [22:19.45]フランスは夕暮れだ [22:21.94]だから、一分でフランスに飛んでいけたら [22:25.25]夕日を見ることが出来るけど [22:27.91]残念ながら フランスは遠すぎる [22:32.31]だけど君の小さな星では [22:34.75]本の少し椅子を動かすだけでいい [22:38.65]そうすれば、見たい時にいつでも [22:41.96]黄昏(たそがれ)を眺めていられる。 [22:45.54]「僕ね、一日に44回も夕日を見たことがあるよ。」 [22:52.73]そう言って、暫くしてから、こう付け加えた。 [22:59.56]「ねぇ 悲しくてたまらない時って [23:03.81]夕日が恋しくなるよね。」 [23:07.55]「44回も夕日を見た日は [23:10.45]悲しくてたまらなかったのかい?」 [23:15.35]しかし、王子さまは答えなかった。